この2〜3年最も「乗っている」為替アナリストである.
リーマン・ショックの時に,それまでの「円キャリートレード」が
大量に巻き戻され,急激な円高となったのは「リスク回避トレード」の
顕著な例だが,大方の市場筋は,これを一時的な要因だと思っていた.
その中で,佐々木氏は「リスク志向とリスク回避」(最近は
「リスク・オン,リスク・オフ」という呼び方をすることが多い)を
いち早く相場材料のメインテーマに据え,ほぼ一貫してこの観点で
為替の動きを予測していた.
そして実際に,2009年以降今日まで,
リスク志向が高まれば株や高金利通貨の買いと円の売り(円安)
リスク回避傾向なら株や高金利通貨の売りと円の買い(円高)
というマーケットの行動様式がほぼ続いてきたため,
佐々木氏は「当たる」為替アナリストとして人気が上昇し,
説明のわかりやすさもあって,最新の専門誌でのランキングで
トップに選ばれたのである.
ところで,「リスク・オン,リスク・オフ」がいつまでも為替
相場のテーマではあり続けない.いつかテーマは変わり,
市場はそれを中心に当分の間回ることになる.
...と言っても佐々木氏の能力を貶めるわけではない.
相場のテーマが全く変わっても,佐々木氏は本来非常に正統派の
為替アナリストであり,高い水準の分析を続けることだろう.
彼は元・日銀の為替担当者として,実際に介入の実務も経験している.
本書に書かれている介入に関する記述も,今の為替アナリストの
中では彼しか書けないという内容がビジュアルに描かれている.
こういった面に関心のある読者にとっても,満足度が高い
一冊であると思う.
確かな実力と経験を持つアナリストが,最も「旬」な時期に
書いた一般向けの本が「弱い日本の強い円」である.
おそらく為替は来年のうちには新たな展開が始まり,
佐々木氏も本来業務に追われてマス向けの本に割く時間は
なくなるだろう.
その意味では,為替相場を動かすメカニズムを知りたい人に
とって,当分の間出てきそうもない本であろう.